第29章 海は広くて大きいが
海から二人で出た後はどうなったんだっけ。
笑い合って、また旅に出て。二人でふらふらと。私は人並外れた力があったから人助けをしてお金を稼いだ。アマモリくんはいつも私のちょっと先を歩いていた。
でもいつからか、彼は私よりはやく歩けなくなった。立つことに苦労するよくになった。私にはない顔のシワがたくさん増えていった……。
水の中ってどうだったっけ。
溺れたら苦しいのだろうか。鬼だった私にはそれがわからなかった。
あの時アマモリくんはどんな顔をしていたかな。
助かった時は笑っていたけど、それは果たして彼にとって救いだったのか。
結局、私は何がしたかったのだろう。
誰かを助けたいと必死になって、その先に何を描いていたのだろうか。
内心、鬼がいなくなった世界のことなんて考えたこともなかった。私は鬼の破滅を望んでいなかったのかもしれない。
水の中をたゆたう、泡のような。
手を伸ばして触れてしまえば消えてしまうような、あの尊くて儚い日常が愛おしくてたまらなかった。
もう戻りはしない過去を思って、何がしたかったのだろうか。
挙げ句の果てにアマモリくんまで巻き込んで、私は何を求めていたのだろう。
私は。
私は、どこへ向かっている?
実弥との暮らしはどこまで続く?隠し事をしたままズルズルと続くのだろうか。
進んだと思っていた。前に向かっていると思っていた。けれど、結局は目的もなく一緒に暮らしていたあの頃と変わっていないのかもしれない。
私たちはまだ止まっている。いや、私が止まっている。
結婚のことだって。子供のことだって。過去のことだって。
私にはきっと覚悟がない。
「……」
私は一人だった。ずっと一人だった。それでも誰かと生きていくことを望み続けていた。
「ばかみたい」