第28章 欠けたところ
「…俺が何を言っても聞いてくれるかわかりませんが」
実弥の声は芯があった。
「が俺にとって『大切』な存在だって、言い続けていこうと思います。」
実弥の声が部屋に響いた気がした。
…大切。特にその言葉が。
「そう。そうね。」
何も見えないけれど、先輩が笑ったような気がした。
「誰かが…誰かがそばで、あなたは大切よって言い続けないといけなかった。」
先輩が独り言のように言う。
「……どうして、それができなかったのかしら。」
誰に対して言ったのかわからない。
その言葉は、誰に向けて言ったのだろうか。
天晴先輩が帰る頃に、私の体は動いた。けれどすぐには動かなくて、目が開いただけだった。
「実弥…」
目を開けると、すぐ側に彼がいた。
「起きたか」
「…うん」
「体は」
「…平気」
実弥の優しい声に、ほんの少しホッとした。
「私、みんなを守りたかった。」
突然話し始める私に驚いていたみたいだった。意識がまだはっきりとしない。
変な話し方とは思ったが、言葉は止まらなかった。
「……でも、もう何が正しいのかわからないの…」
守りたかった。強くありたかった。でもみんな悲しそうな顔をするんだ。
一番見たくない顔で。聞きたくない声で。みんなそうだ。
「…それは俺にもわからねェ」
実弥が私の頬を撫でた。
「けどな。お前が誰かを守りたいように、誰かもお前を守りたかったんだ。」
「…私を?」
「…………お前は間違っていない。」
実弥は続けた。
「誰も傷つかなかった。全員守り抜いたんだ。……お前のおかげだよ、ありがとう。」
「………。」
でも、と彼は続ける。
「ごめんな。」
「?」
「守ってやれなくて…ごめんな。」
実弥が謝った。
きゅう、と胸が締め付けられた気がした。
私は、呆然とただその言葉を受け止めた。