第28章 欠けたところ
体はまだまだ動きそうにもない。
その間にも先輩の話は続く。
「…今でもそれが変わらないのよ。もう体に染み付いてる。……霧雨ちゃんは何も悪くない。悪いのは、それを良しとしていたこの子を育てた環境。…今回のことは、この子の悪いところが全部出たって感じね。
全部一人でなんとかしようとする。誰かを守ろうとする。…たとえ、自分がボロボロになっても。最悪死んでも。それを怖いとも思わない。…私はそれが恐ろしい。」
先輩の声が止まった。
私はまだまだ動けない。
「…実弥くん、見捨てないであげてね。あなたはもうこの子のこういうところに慣れて、今回は何も怒る気はなかったんでしょうけど。ちゃんと目を見て、怒って、言葉をかけてね。
嫌に思わないで。霧雨ちゃんはこれからなのよ。これから…大切なことをたくさん知っていくのよ。だから、たくさん話をして…。
霧雨ちゃんを許さないで。この子を育てた環境を許さないで、憎んで、恨み続けて。とても過酷なことよ。でも、もう誰もこの子を一人にしてはいけないの。……私は、最後まで一緒にいてあげられなかったけれど。
霧雨ちゃんは、あなたにはまだ隠し事をするみたいだけど、甘えるには甘えているみたいだから。…ちゃんと怒ってあげてほしいの。きっとわからないって首を傾げるでしょうけど。
何度でも伝えてあげて。私の言葉とあなたの言葉では重みが違うと思う。霧雨ちゃんはわからないなりに、理解しようとするから。」
先輩は続けた。
「この子の欠けたところを、埋めてあげて。」
わからなかった。
私に、その言葉の意味はわからなかった。
「…俺も」
その時、初めて実弥が話した。
「大切な人が幸せなら自分はどう思われても良いし、どうなっても良いと思っていました。」
それは。
恐らく、実弥が私に隠し続けた最大の秘密であった。