第26章 雨は太陽と共に
「そうですね」
陽明くんがうなずく。
「あなたの生き方は素晴らしいと思います。」
「…い、いや、そんな風に言われるものでは…」
「……ほとんどの人が悲しみや苦しみに目を向けてしまう。あなたはどんなことがあっても幸せだと言って死んだ。」
彼はそっと目を閉じた。
「…阿国と同じです。本当によく似ている。」
……?
私はなんと返せばいいのかわからずに黙り込んでしまった。
「無惨、俺はお前を救いたいよ。だから、死にばかり目を向けるのはやめてくれ。そして、死を理由に復讐なんてしないでくれ。そんなことは悲しくてたまらない。」
その間に陽明くんが無惨に向き直った。
無惨は忌々しそうな目を向けていたが、心なしか表情が柔らかだった気がした。
「私も、同じ気持ちよ。」
「…お前は私が憎くはないのか。」
「いいえ…と言えるほど私の心は綺麗じゃない、けど。私は復讐がしたいわけでもないから。」
「……」
無惨はギロリと私を睨みつけた。
「異常者め。」
たった一言毒を吐いた。
「もういい、お前たちの相手をするのは疲れる。」
諦めたような、安心したような、いろんな感情が混ざっていた。
「…死に急いでいたのは私、というわけか。」
無惨は小さく呟く。
「もう良い。どうせすぐに私は死ぬ。」
「…案外、そうでもないかもよ」
陽明くんが言う。
「信じてごらん。自分の命を。俺もそうやって生きてきたよ。」
「わ、私も。痣が出ちゃって、もうすぐ死ぬかもしれないけど絶対生きられるって思ってるよ!」
無惨がポカンとしているのがわかる。
「…異常者め」
そして、本日二度目の言葉を吐き出した。
「まあ、気が変わればすぐにでもまた手を出す。それに政治家という地位も気に入っているしな。しばらく続けるつもりだ。」
「まあそれが生きがいになるなら俺は嬉しいけど?」
「ふふっ。そうだね。」
なんだか、ずっと張り詰めていた糸が切れたような気がしてほっとした。
体の力が抜けていくのがわかる。陽明くんもそうなのか、力なく私の背中を一度だけ叩いてくれた。