第26章 雨は太陽と共に
その後、神社の本殿から出た。陽明くんは無惨と話がしたいと言って神社の周りを歩きに行ったので、私は一人で二人を待っていた。
力なく神社の敷地内のベンチで一人座っていると、そこにとある人物が現れた。
「こんにちは」
「…こんにちは」
阿国の母親だった。今日も少し変わった服を着ていて、異様な雰囲気をまとっていた。
「来ていたのね。陽明が呼んだのかしら。」
この前と少し感じが違った。
「…お邪魔しています。」
「良いのよ。あの子に付き合ってやってくれてありがとうね。」
「…いえ、私の意思ですから。」
「そう。お隣、よろしくて?」
私は首を縦に振った。
母親は私の隣に腰を下ろした。
「…あの子が生まれた時、私とても嬉しかったの。」
「…陽明くんが?」
「ええ。」
急にそんな話が始まったので驚いてしまった。母親はどんどん話を進めていった。
「立派に育てようと思ったわ。でも、物心つく前から一人でなんでもできてしまう子だった。きっと母親が必要じゃなかったのね。」
とても悲しい声色だった。私は黙って聞いていた。
「あの子が誰かを頼るなんて本当に珍しい。」
「…」
「ありがとうね。」
その顔は母親のものだった。お母さんと呼ぶにふさわしい、逞しい微笑みだった。
「…あなたは陽明くんと阿国に必要ですよ。」
「……」
「不必要だなんて思わないでください。お母さんは…たとえ、どんな人でもお母さんだから。何歳になっても子供はお母さんを求め続けるんです。」
気づけばそう口走っていた。
…ああ、まるで自分に言っているみたいだ。
私だってそう。嫌いだ嫌いだと言いながら母親から離れられない。お金だけでも関係が欲しいと思ってしまう。
「…そう。」
母親は少し俯いた。
「あの子ね、私より早くに死んでしまったのよ。」
「え…?」
「大切なお友達のためにね。母より友達なんだ、って思うと辛かったわ。けれど、陽明が選んだ道だものね。口出しできなかったわ。」
彼女は顔をあげて私と目を合わせた。
「逝かないでって私が素直に言えば、思いとどまってくれたのかしらね。」
母親の意味深な発言は理解ができなかった。
けれど。
「結果はどうあれ、心には残ったと思います。」
そう言うと、彼女はまた笑った。