第26章 雨は太陽と共に
「俺は大好きだったよ、君のこと。」
「…っ!!」
悪意のない言葉に無惨が言葉を詰まらせる。
「鞠も琴も、全部君が教えてくれたんじゃない。頼りになるお兄さんって感じでさ。」
「うるさい」
「俺はね、そう言うことに目を向けて欲しかったんだ。」
「……」
「言葉ではとても…言い表せないけれど。」
陽明くんが続けた。
「幸せは生きることだけじゃないよ。人として死ぬことだって…美しくて、素晴らしいことだ。
目を閉じて思い出せば君との思い出はこんなにも色鮮やかだ。君が病気で動けなくなってしまった頃、僕はまだ五つ六つの子供だったけれどね、確かに覚えているんだよ。
だから、君が鬼になってたくさんの人を殺してしまうとわかった時は悲しかった。
道端に咲く花の美しさや、青空の澄んだ輝き、そよ風の気持ち良さ…全部忘れて、遠い未来で一人寂しく、誰にも求められずに逝ってしまうことが何より悲しくて苦しくてたまらなかった。
だから止めようとした。けれど、俺には大好きな友達である君を殺すことなんてできなかった。」
陽明くんは優しい目で語っていた。
その優しさがあまりにも切なくて、私は泣いてしまいそうになった。
果たして、無惨に響いているのだろうか…。
「ならば答えろ、神の子」
無惨が言う。
「私はなぜいつも死に取り憑かれる運命にあるのだ。」
「それはわからない。けれど、そういう意味では俺もさんも“生”に取り憑かれている。」
「…生に?」
「俺たちは生きている。誰もが望んで今の人生を送っているわけではない。生まれたいと願って生まれたものは一人もいないんだよ。」
「……」
「俺だって願いが叶うならこんな力はいらないさ。母親を呪い殺してでも生まれてくることはなかっただろうね。」
陽明くんの言葉に無惨が黙り込む。
「でも、さ」
たまらず私が口を挟んでしまった。
「生まれてきたから、死ねるし、生きられるよ。悲しいことも苦しいこともあるけど、その中にあった楽しい思い出があるから前を向いて生きていける。立ち止まっても、泣いてしまっても、一生懸命に進めるんだ。」
生きることも死ぬことも悪いことではない。
けれど今私たちは生きている。精一杯、全力で生きているんだ。