第3章 夢の中
看護士さんは速かった。洗面器を取り出してそれを受け止めた。
おかゆだけじゃなくて、胃液も吐いた。しばらく嘔吐が止まらず、数分間空っぽの胃から吐き続けた。
「……っ、…!!」
肩で息をする。
自分が今何をしているのかわからないほど頭がくらくらした。
「霧雨さん、大丈夫ですよ。口ゆすいでふいてあげるから。」
看護士さんがにこやかに言う。洗面器をてきぱきと片付けて、放心状態の私にちゃんと対応してくれた。
「うん、綺麗になった。ご飯、ビックリしましたねぇ。」
「……ぅ、あ、あの、わたし、すみません、ご飯…」
震える声で言った。
「大丈夫ですよ。本当に大丈夫。苦しかったでしょう、横になっていいですよ。また挑戦しましょうね。」
看護士さんが優しく言うので、私はその言葉に甘えた。
ご飯を食べると嘔吐した。
無理に吐いて胃液だけが出た。
今日もまた吐いてしまって私はぐったりしてベッドに寝ていた。とはいえ、数時間後のお昼にはまた食べないと言えないのだが。
食事ができない私に点滴が増えた。
ご飯も食べれず液体で栄養を補給するなんて、人間じゃないみたいだ。
ご飯が食べられないことは誰にも言ってない。
けれど今日は実弥が来る。
「はい、口開けてください。」
看護士さんが言う。
私はその日、初めて口を開けなかった。
「霧雨さん?」
来る。
それが気配でわかった。
「こんにちは」
がらがらと音がして、実弥が入ってきた。
「あら。噂の幼なじみ彼氏さん?」
看護士さんが言う。私は反応できなかったが、実弥が控えめに頷いた。