第26章 雨は太陽と共に
再び物陰から無惨をのぞく。
まだカナエと対峙しており、話している声のトーンもだんだん大きくなっていた。…二人の言い合いは終わらなさそうだな。
無惨は焦っていない。となれば、陽明くんが言っていたようにスパイが今何かしら動いているのだろう。
もう構っていられない。私は迷わず飛び出した。
「えっ!今行くんですか!?」
「ゆっくりしてられないからね!」
慌てる陽明くんが数歩遅れて私に続く。
「無惨ーーーッ!!」
声を張り上げて名前を呼ぶと、奴は弾かれたように振り返った。
「…霧雨?」
「ッ………?」
両者がそれぞれの反応を示す。構わず私は走って無惨に叫び続けた。
「無惨!こんなのはやっぱり私、納得できない!だから!!」
ついに私はその手をつかんだ。
「私と行こう」
「…何を言うんだ、貴様は」
無惨がギロリと私を睨む。
その一方で、カナエは信じられないと言うようにこぼれんばかりに目を見開いていた。
「何もかもお前のせいだ。急に現れて急に消えたくせに何を言う。お前が納得しないからとなぜ私がお前の手を取らないといけないんだ。」
「あなたが言ったんでしょ。私はそっち側だって。」
「…は?」
「私は、あなたと同じだよ。それは否定しない。だからこそ、無惨がやっていることは理解できない。」
無惨はそこで黙った。
「だから行こう。…あなたは一人じゃないんだよ。」
そこまで言ったところで、私の背後から陽明くんが一歩踏み出した。
「俺も。」
陽明くんの姿を見た無惨が肩を震わせた。彼の感情が揺らぐのを感じた。
「…話したいことが、たくさんあるよ。」
陽明くんは爽やかに微笑んだ。
「俺を…俺たちを信じて。」
その言葉が無惨に響いたのかはわからない。まだドロドロとした感情は心の中にあるようだった。
しかし、陽明くんを前に何かが変化したのは確か。
「…わかった。」
短く、小さい声でそう言った。
陽明くんはホッとしたのか、軽く息を吐き出した。