第26章 雨は太陽と共に
陽明くんは迷いなく進む。
もう歩いてなんかいられない。二人揃って校内を走り回っていた。
「この方向…学園長室!?」
「ええ!急ぎましょう!!」
異様な力を持ち物同士。ここまでの会話を聞いていた人がいれば訳がわからないと言うだろう。目に見えないものに対して私たちは戦っている。
気配が強くなる。
自然と足も速くなる。
「見えた」
こちらに背をむけ、廊下を平然と佇む姿になぜか安心感を覚えた。…あいつの姿に安心するなんて、私もおかしい。
「待って、無惨だけじゃないよ。」
陽明くんに腕を引かれて止められた。慌てて物影に隠れる。無惨の向かい側にいたのは私もよく知る人物だった。
「胡蝶先生だ。」
「!カナエ…!?」
予想だにしない組み合わせ。悪いこととは思いながらも二人の会話に耳を傾けてしまう。
「…どうやら、胡蝶先生が無惨の足止めをしているみたいですね。」
「え?」
「アポもなく無惨が校舎に入ってきたから揉めてるんです。」
まるで一部始終を見たように言うのでギョッとしてしまった。
「…もしかしてさ、過去も見えてるの?」
「まあ、はい。」
過去も未来も見えるのか…。その上気配察知まで。この子を見てると、私の力なんてなんの意味もなさないように思えてくる。
「でもここで足止めしてもダメですね。もうこの学園にはスパイがいる。揉めてる間に教頭が根回ししておしまいです。」
「…じゃあ、止めなきゃだ。」
「そりゃそうですけど、どうやって…」
「……。」
陽明くんが黙った。
…そうか。過去や未来が見えているからこそ、どうしたらいいのかわからないんだ。もう決まったものが見えているんだもん。変えようとする方が難しいよね。
でも、今はこうして勇気を出して動いてくれている。
「私が出るよ」
「え…?」
「私がアイツを学園から出す。陽明くんは誰にも会わないように私を連れて行って。」
「……。」
陽明くんは少しためらっているようだ。
「でも、それをしたらあなたが危険な目に遭ってしまいます。」
「いいよ。」
もう彼には未来が見えているらしかった。けれど私は笑った。
「私を信じて。一緒に頑張ろうよ。」
「…はい。」
陽明くんはうつむいた。その姿が痛々しくて胸が締め付けられたが、私は決意を固めた。