第25章 不滅の心
天気予報なんて見ていなかったから、外が雨だなんて知らなかった。
濡れ鼠になりながら走る私を、通行人が不思議そうに見ていた。
手持ちのお金もないので移動手段は自分の足。もう外は真っ暗だった。とにかく、無惨に見つかるのが今は恐ろしかった。
心臓が早鐘を打つ。
そんな中、私は必死に走っていた。
今、自分がやるべきこと。
ああ。そんなもの、もう頭の中にはなかった。
ごめん。
ごめん皆。
もう私はそちら側に帰れないかもしれない。
でもごめん。
全部終われば、ちゃんと謝るよ。許してもらえなくても、謝るよ。だから今だけはどうか許してほしい。
わがままでごめん。弱くてごめん。強くなくてごめん。守れなくてごめん。
でも、このままでは終われないから。
私は走った。雨の中をひたすらに走った。容赦なく冷たい雨が私に降り注いでも、お構いなしに走った。スマホとあの紙だけは濡れないよう大事に包んで鞄に入れていた。
途中で転んでしまって服が泥まみれになった。皮膚が裂けて膝から血が出た。寒くて足が震えた。
それでも走った。止まることなく。
まるで、自由に解き放たれた前世のあの時のように。
目的の場所に着いた時、私は意を決してその中に足を踏み入れた。
傘をさしている誰かが見えた。私より幼い、彼が。
「……気づきましたか。」
振り返ったのは、陽明くんだった。
「…やっとわかったよ。君がどうして私を将棋部の部室に呼んで、無惨と接触させたのか。」
「うん…まあ、でも、そんな格好になってまで来てくれるとは思いませんでしたよ。」
びしょ濡れな上に泥まみれ。血を流す私に眉をひそめていた。
「あなたにできますか?これは、僕にできなかったことです…。」
「できる。できなくてもやる。」
「……。」
陽明くんはクスッと笑った。
「すごいな。」
「……。」
雨が強まる。
彼は私に傘を傾けてくれた。
「阿国もそうだが、どうして俺の子孫はこんなにも俺に似なかったのかな。」
その笑顔に、思わず私も笑った。