第25章 不滅の心
どうやら無惨は本気らしい。
……。
ここにいる場合ではない。行かなければ。今すぐにでも、ここから出なければ。
でもここから出てどうする?何をすればいい。どうすれば止められる。
(……これを…)
震える手で自分のスマホと分厚い書類を全て取り出す。
それで引き出しの中は空になると思っていた。しかし、中にはまだ何か入っていた。
「…?」
手を伸ばして掴んでみると、それは何かの紙だった。書類とは違う、たった一枚の紙。
「これって」
そのメモの文章を読んだ私は、背筋が凍ってしまった。
無惨の家に監禁状態だったとはいえ、縛られているわけでもなんでもなかった。逃げるなんて容易い。
それなのに、私を、この家に置いていたのは。
「……」
数日間放置されたスマホはもう充電がなく、何もできなかった。…外とは連絡が取れないか。
わかってる。無惨とは口約束をしただけだ。私がここにいれば、誰にも手出しはしないと。…ずっと忠実に私はそれを守っている。ただそれだけで無惨は私をこの家に縛り付けている。
ここから出たらどうなる。
無惨はすぐに行動を起こすだろうか。そうなれば、みんなはどうなる?
「……でも」
でも、とまた口からもれた。
わかってる。相手は無惨だ。考える前に動かないと。考えるな。余計なことは何も考えるな。
頭の中でそんな警告が鳴り響いた。
しかし、数秒後、私は漁った引き出しをきれいに元に戻して部屋から飛び出していた。
スマホとあの一枚の紙だけを強く握りしめていた。
余計なことは考えてはいけない。自分が今どうするべきか、それだけを考えればいい。
わかってた。わかっていた。
でも。
私は、その日のうちに無惨の家から脱出した。