第3章 夢の中
伊黒くんと蜜璃は午前中に帰った。
午後は誰も来ない予定だ。実弥は忙しいことがあるらしくあまり来ない。毎日毎日青ざめた顔を見られるのも恥ずかしいから、別にいいんだけど少し寂しい。
その午後からはまたリハビリだった。手を動かすのはまだ難しいが、おおまかな動きならできた。例えば、握ったり開いたり。これが限界だった。
「霧雨さんは絵を描くんでしょ?今までずっと手が働いてくれてたから、お休みだと思ってゆっくり頑張りましょう。」
先生は優しかった。ここにいる人たちは私を否定することなんて言わない。度が過ぎるほど優しい。
リハビリが終われば主治医の先生が来た。先生はベッドの上で座る私を見て、微笑んだ。
「うん、元気みたいだね。」
「そうらしいです。」
「自分のことですよ。」
「まだわかりません。」
私が言うと、先生は頷いた。
「これからわかります。」
先生は続けた。
「霧雨さん、明日からご飯食べましょう。」
「ご、ごは、ん…。」
「うん。ご飯。わかるかな?」
ええと、ご飯。わかる。わかる。
「あの。食べたいけど、お腹、空いてなくて。」
「大丈夫。とりあえず食べてみましょう。」
「私、まだ手が。」
「じゃあ誰かに頼んでおきましょうね。」
頼むって、食べさせてもらうってことか。何だか赤ちゃんになったみたいだ。
って、そんなこと言ってられないか。