第3章 夢の中
次の日。珍しい人が来ることを知らされ、いざその人物を目の前に私は目を見開いた。
「伊ぐ、ろくん」
辿々しく名前を呼ぶと、彼はふっと微笑んだ。
目覚めてから、皆よく私に微笑んでくれる。それが嬉しいようで少し小恥ずかしい。
「元気そうだな、霧雨。もう起き上がって平気なのか。」
そしてその後ろで目に涙をためながら私を見ている子がいた。
「うわあああん!!先輩本当に良かったですううううう!!」
蜜璃だった。そんなに喜んでくれるのは嬉しいけど…。
「みつ、り。病院だから、ダメだよ。」
「静かにしよう甘露寺。」
私達先輩に言われ、蜜璃は大人しくなった。しかしそれでもぐずぐずと泣いていた。
「う、ぅ、私、すごくすごく心配で……不死川さんの落ち込みようも見てられなくて…。」
「………泣かないで蜜璃。」
可愛い女の子が泣くのは勘弁してほしい。私まで泣きたくなる。
「まだ、手が、動かないんだよ…。ふいてあげられないから、泣かないで。」
私が言うと、蜜璃はまた泣いた。伊黒くんはただそれを見守っていた。
「なあ霧雨」
私は彼に目を向けた。
「お前、仕事もたくさん抱え込んで無理をしていたんだろう。……何も知らなかったよ、俺は。」
伊黒くんが真っ直ぐな目を向けて言った。
………。それが原因だったのかな。原因はわからないって言ってたけど。
無理しすぎてたのかも。それは自覚がある。でも。
「関係、ないよ。私は、好きでやってた。絵もまた描きたい。」
「……違うんだ霧雨。」
伊黒くんは続けた。
「お前の心臓が止まったと聞いて、もう会えないと思った。正直目が覚めないのではないかと思った。」
あまりにも優しい声音だったので、何だか涙がこみ上げてきた。
「後悔するよ。お前を信じなかったこともお前を知ろうとしなかったことも。例え原因が何かわからなくても。だからもうこんなことは嫌だ。もっと頼ってほしい。…頼りない俺だが。」
その後ろで蜜璃がまたわんわんと泣く。伊黒くんはぎょっとしてハンカチを渡していた。
「ごめんね伊黒くんごめんね、うわあーん」
「き、霧雨、お前まで…!」
わんわんと泣く私と蜜璃に伊黒くんはおろおろとしていたが、その日の病室は賑やかで、私は散々泣いて何だかスッキリした。