第24章 私はどこの誰
「何を企んでる。私をそばに置いてお前に何の意味がある。」
震える声でそう口にすると、無惨は淡々と答えた。
「意味はある。お前をこちら側に引き込むことができればそれでいい。」
「……?」
「ふん、わからんか。まあ良い。」
…待って。
なんで。いやだ。でも。
「………本当に…やめてくれるの…?」
「ああ、約束しよう」
無惨が笑う。
……嘘はついてない。
嫌だ。
嫌だよ。こんなやつに触られるの、気持ち悪いし。
でも。
でも、そんなのはどうでもいいんだ。皆が傷つくことに比べれば。
だって。だってもう嫌なんだよ。冷たくなる死体を抱きしめたり、傷つく仲間を見送ったり、泣き叫びながら墓に縋り付く人を見たり。
皆、私の大切だから。
そのためなら、私なんてどうでもいいんだ。無惨の言うことは嘘かもしれないけど。
ここで抵抗したら、私は皆を切り捨てたことになる。無惨はそれがわかってて言ってるんだ。
たとえ嘘でも、私は皆を無下になんてできない。
「……わかった」
私は抵抗をやめた
「そうか、そうか。お前は自分の意思でそう言うのだな?」
「……そうよ」
また無惨の手が体を這う。けれど嫌悪感はいつの間にか消えていた。
……いいや。
もう。どうでも。
全部どうでもいい。
皆を守れたら、全部どうでもいいの。私のことなんて。笑っておけばいい。そうすれば楽だから。
それにさ、ほら。天井のシミを数えているうちに終わるって言うし。
ああ、でも。
…くそ。
(この部屋、天井にシミがないなあ)