第24章 私はどこの誰
無惨は若い男の姿をしていた。…いや、もう鬼ではない。姿は変えられないから、今はこれが本当の姿か。
見た目は綺麗に整えているようだが、シワひとつない上等なスーツが胡散臭く見えた。
「まあ、待て」
無惨が言った。私に対してではない。部室の中にいた、もう一人の男にだ。
私の前にぬっと現れた、長髪が特徴的な男。
「黒死牟…!!!」
「…今は継国巌勝だ。」
見た目が何一つ変わっていない。無惨と同じくスーツを着ていた。
「お前たち、ここで何をしている!」
「それはこちらのセリフだ。急に現れて礼儀正しい挨拶もできないとは、失礼ではないか?なあ、霧雨。」
「私の質問に答えなさい!」
無惨はニヤニヤと笑っていた。
「この学園に何をするつもりなの…?」
「学園などに興味はない。今はお前に興味がある。」
「…は?」
「言っただろう、復讐を果たすと。」
私は眉をひそめた。無惨が何を言っているのかわからないから…というのもあるが、一番はこの部室の匂いだった。
変な匂いがする。甘ったるい、変な匂い。鼻の奥がツンとして、頭がふわふわしてくる。
「…そんなことさせない。復讐?逆恨みの間違いじゃないの。人を不幸にして何が楽しい?どうして一生懸命生きている人たちの全てを踏みつけにするの。」
私はぐっと拳を握りしめて無惨のすぐ目の前まで近づいた。
「もう誰も傷つけさせないから。」
無惨の顔から笑顔が消えた。
私ももちろん笑ってなんかいない。
「……何を偉そうなことを。お前が上から物を言えるのか?霧雨、お前はこちら側だ。」
「…は?」
無惨がまた目を細める。
怒りでうまく感情が制御できずにいた私は殺気も敵意も剥き出しだった。