第3章 夢の中
降りてきたのはもうずっと見知った人物だった。
車椅子に乗ってる私をみてポカンとしていた。
「ほら、不死川さんですよ。」
先生が私に言う。私もポカンとしてたから。
「今日はいらっしゃると聞いていたんです。お迎えしようと思って、霧雨さんに頑張ってもらったんですよ。良かったです。」
それでようやくなるほどと納得できた。
先生は初めからこれが目的だったらしい。
「く、車椅子」
私は言葉を発した。
「先生がいないと、できなかったけど、乗れたよ」
実弥はしばらく沈黙して、優しく微笑んだ。何かをこらえているようだけれど、それが何かまでは感じ取れなかった。
「あぁ、すごいなァ。頑張ったんだなァ。」
誰に言われるよりも嬉しくて、私は笑った。
先生が交代して、実弥が病室まで返してくれた。
ベッドに戻るのはもちろん先生が支えてくれてちゃんとできた。
「つ、つ、つかれた」
「でもすごい進歩ですよ、霧雨さん。」
先生はにこりと笑う。
「これからも頑張りましょう」
「はいぃ…」
へとへとの私は気の抜けた返事しかできなかった。
先生が退室して、実弥と二人になった。
「お前、本当にもう元気だなァ」
実弥が言うので、私は顔をしかめた。
「そうなのかな、わかんない」
「バカタレ」
「それより、今日来るの、知らなかった」
「あの先生が黙ってたんだろ」
「そっか」
私はいまいち働かない頭で考えた、
「ねえ」
「あ?」
「私、げ、元気になってる?」
「なってる」
実弥は間髪いれずに答えた。
「そ、そっか、顔色、悪いけど、歩けないけど」
私はそこで一息着いた。
「元気なんだね」
実弥は、それに頷いた。
その日は口数が少なくて、二人で静かに過ごした。