第23章 時を超えた告白
桃色の淡い色をした墨で、まだ書き進める。
これはおそらく打ち合わせ通りではないのだろう。ステージの側で何人かがウロウロして慌ただしく動いていた。
「……木谷さん」
そして、次に何を書いているのか気づいたハルナちゃんがぽろりと涙を流した。
「はは。やっぱりあんた、恋に情熱的なお人だ。」
宇髄先輩が含みのある言い方をした。耳のいい彼はとっくに知っていたらしい。
その間にも優鈴が書き進める。
書いているのは、桜の文字。まるで霞を吹き飛ばすような、力強いタッチだった。
霞の文字の上に桜が重なる。
いつの間にか、一つ目の霞の文字ははかすんでしまっていた。桜の大きな文字の横に、小さく書き上げる。
その文字は、『ありがとう』
そこで曲が止まり、優鈴も立ち止まった。
置いたマイクを握り、話し始めた。
『ずっと、僕の目の前に霞があったんです。それは拭いきれなくて…苦しかった。でも、桜が吹き飛ばしてくれた。』
文字を書いていた時とは別人だった。今はいつもの優鈴だ。
『言いたかったけど、口で言えないから、文字にしたくて、ずっと悩んでました。…見てもらえて、良かったです。ありがとうございました。』
優鈴が一礼する。会場に拍手がわき起こった。
「文化祭のレベルじゃなくない?」
「これおかねとるべきだよー!!」
近くの女子生徒が迫力に圧倒されたのか、泣きながらそう話していた。
ハルナちゃんはボロボロに泣いていた。
「霧雨、行ってこいよ。」
先輩が私の肩を叩いた。
「…でも、ハルナちゃん……」
「私もあとでいく」
ごしごしと乱暴に涙を拭い、真っ赤な目で確かにそう言った。
「だから、先に行ってきて。今泣いてて、私ぶさいくだから…。」
「俺が見てるから。早く行け。あの人の控え室は一番下の階の教室だ。」
二人に後押しされて私は頷いた。
人目も気にせず走り、たった一人の親友に会いに行った。