第23章 時を超えた告白
『テーマは…』
優鈴がしばらく黙り込む。
しかし、それは違和感のない間だった。
『桜』
「えっ」
ハルナちゃんが声をもらす。
『桜…ですか、季節外れですね?』
『そうですね。でも。僕の好きな花です。』
先輩も、私も、ハルナちゃんも話さなかった。
『好きなものに季節も時間も関係ないって思ってるんです。多分僕は、生まれ変わっても桜が好きなんだと思います。好きなものはずっと好きだし。…とにかく、精一杯頑張ります。』
『はい!それじゃあパフォーマンスをしていただきましょう!!』
散々振り回された司会者は最後まできちんと仕事をやりきり、早足でステージから去っていった。
優鈴は紙の上で堂々と立っていた。
そして、右手の人差し指を突き立てた。
とある一点を指さす。
「…あ?」
先輩とハルナちゃんが私に視線を向ける。
優鈴は、確実に私を指さした。
『見てて』
そう言ってにこりと笑う。観客は誰か特定の人に言った言葉だとは思わずに、歓声を上げた。
優鈴はマイクを置き、巨大な筆を手に取る。
音楽が流れる。優鈴の雰囲気に似合わないロック調の曲だった。
しかし、その瞬間優鈴は豹変した。
まるで、悪魔でも取り憑いたように筆をぶん回していた。その迫力に観客が息を呑む。
筆を叩きつける。墨が飛び散る。時折雄叫びをあげて優鈴は書き進めていた。
「……おいおい、こりゃあ…」
書き上げる文字を見ながら先輩が声をもらす。
わかる。
優鈴が何を書いているのか。
霞。
霞の文字を書いていた。
「なんで霞?」
「テーマ桜でしょ?」
周りの人がコソコソと離す。
優鈴が感情をむき出しにして書いている。その感情がわからないほど、馬鹿ではない。それが痛いほど伝わってくる。
「…なんて大胆な告白だよ……」
先輩がぼやく。
私は目が離せなかった。
汗まみれの優鈴が髪の上で暴れていた。
一つ文字を書き上げると、ステージ上で何かを叫んでいた。それを聞いた生徒が慌てて新たな墨と筆をステージに運んできた。