第3章 夢の中
先生がドアを開けて廊下に出る。ひんやりとした空気が私を包んで、とたんにざわざわとした何かが私を襲った。
ああ、気配だ。
そうだここは病院で、人がたくさんいて。今まであんまり意識しなかったけど。
「行きますよ」
先生が車椅子を押す。私はずっと下を向いていた。
車椅子にのって、ベッドから出て、私は少しパニックだった。久しぶりに外に出るとこうなるのだろうか。私、ちゃんと元の生活に戻れるのだろうか。
「あらぁ~!!すごい!外に出てる!!」
急にそんな声がして、はっと顔をあげた。
そこにいたのは、まだ座れもしないときにリハビリの先生と一緒になって私の体を起こしてくれた看護士さんのうち一人だった。
「もう、感動しちゃう。良かったですねぇ。」
その人はにこりと笑った。
少し目尻に涙がたまっているのが見えた気がした。
「あ、ありがと…ございます」
「あらあら、そんなのいいのよぉ。霧雨さんが頑張ってるからよぉ。」
私より年上のその人は、まるで幼子にするように私の髪を撫でた。
その後もすれ違う人が声をかけてくれて、車椅子はなかなか進まなかった。けれど、私はそれでも嬉しかった。
「霧雨さん、エレベーターまで行ったら帰りましょうか。」
それはもう私の視界にはいっていたし、すぐに着いた。
先生はそこで止まった。
「…か、帰らない、ですか?」
「うん。もう少し。」
何やら含みのある笑顔を浮かべて先生が言う。エレベーターに視線を戻すとちょうど光が点り、どうやら誰か降りてくるらしかった。
「来るひとの、邪魔になる」
「大丈夫」
先生がにっこり笑う。
そして扉が開いて、人が降りてきた。