第22章 それぞれの学園祭
彼が私たちを案内したのは将棋部の部室だった。
久しぶりに足を踏み入れたそこは、私が通っていた頃と何一つ変わらない。
「どうして俺たちの名前を知っていたんですか、先輩。」
「後輩ぶるのはよしてくれ。君は長生きなんだろう?」
霞守くんがにこりと笑う。…明らかに雰囲気が変わった。
「それで、君たちは俺に鬼舞辻無惨の話をしに来たってことだろう。」
「な、なんでわかるの?」
私が聞くと、馬鹿にしたように鼻で笑った。
「俺は全部見えてるからね。」
「……。」
「じゃあ短く済ませよう。」
まるで全てを見透かされているようだった。春風さんとは違う。あの人とは比べものにならないほどのものを見透かされている。
「俺は鬼舞辻無惨を無視するつもり。特に何かをするつもりはない。」
「おい、お前何も知らないのか。神社と霞守の一族は狙われているんだぞ。」
「知ってるよ。けど、俺はもう関わる気はないんだ。」
感情に揺れがない。
これが嘘ではなくこの子の本心だとわかる。
「俺に構わなくていい。自分のことは自分でできる。」
「そんなひょろひょろな体でか?」
「それは余計だよ、愈史郎くん。」
彼はじとっと愈史郎さんを睨んだ。
「じゃあ一つアドバイス。さん。」
「!」
名前を呼ばれて思わず背筋が伸びる。
「明日、絶対にここに来て。」
「…え?」
「そうだな。書道パフォーマンスが終わった後がいい。あなたは木谷優鈴のところに行くから、その後がいいな。」
「何を…?」
「来ればわかるよ。」
陽明くんはにこりと笑う。
何を言っているのかわからないが、何を聞いても答えてくれなさそうなので黙って頷いた。
「で、話は終わりでいい?」
「待て、何も解決していない。無惨はお前達とこの学園を狙っているんだぞ。」
「いいよ。」
陽明くんは目を閉じた。
「もう俺は疲れたんだ。」
陽明くんは海の上をたゆたう流木のようだった。ただ流れるだけ。流れに身を任せるだけ。
「でも、妹の阿国も狙われてるんだぞ。」
「…俺は必要ないよ。」
何を言っても、無駄な気がした。
愈史郎くんはついに何も言わなくなった。
「阿国は、自分の世界を見つけたんだ。」
その時、彼の感情が揺らいだのを感じ取った。