第3章 夢の中
ゆっくりだけど、自力で起き上がって座れるようになった。
座るだけで筋肉痛になったりしたが、おばあちゃんたちに見せたら泣いて喜ばれた。
「霧雨さん。今日は車椅子に乗りましょう。」
それから数日たって、また誰も来てない日に言われた。
「く、くるまいす?」
「はい。覚えてますか?車椅子です。」
私は特に異常もないのだが、急に言われた単語がいったい何なのかわからなくなることがある。
見れば思い出すんだ。車椅子だって、あぁってなって、そういえばこんなのあったなって。
「乗りましょう。僕が抱えて座らせてあげますから。」
「う、動くの、嫌です。目が回るんです。」
「大丈夫。もう気絶しないよ。」
先生が優しく言うので、私はやってみることにした。
ベッドから車椅子に座る。それだけのことだが、できない。座ることは思い出したけど立つことはまだ忘れたまま。わからない。
先生が私を支える。立てない私は全体重を預けることとなった。
「重くないですか」
「全然。軽いですよ霧雨さん。」
私は気づけば車椅子に座っていた。
目は回らなかったが、すごい汗が出ていた。
「ほら乗れた」
先生が手を叩いて笑う。
「あ、あは、あはは、本当だ。」
私もつられて笑った。
座れただけで手は思うように動かないので先生が手すりをもって車椅子動かしてくれた。
「う、動いてる。」
「はい。動いてます。」
「ぐる、ぐ、ぐるぐるします。」
「そりゃ動いてますから。」
最初は変な感じだったけど、だんだん慣れてきた。
それでも変な汗は止まらないし、私はもう何が何やらわからない。先生はそんな私ににこやかに問いかけた。
「霧雨さん、病室から出てみませんか?といっても、病院の中限定ですけどね。」
「……でも私、きっと今、すごい顔してる。顔が青いですよね。わかるんです。さっきからドキドキしてばかりで。」
「大丈夫。ここは病院なんだから。」
私はそう言われて、ようやく頷いた。