第22章 それぞれの学園祭
高等部の校舎に中等部の生徒は入れない。しかし、学園祭の期間なら入ることができる。
「中等部ほど柔軟には動けない。学園祭の期間、中等部の生徒が立ち入り禁止になっている場所ももちろん存在する。そこはお前の出番だ。」
「オーケー。設定だけなら高等部の生徒だもんね。……でも、私は外部に進学して高等部の校舎にはほとんど行ったことないから、あんまし期待しないでよ。」
「ああ。後頭部にはメイド喫茶をやってるクラスがある。もし見つかってもバレないから堂々と行けよ。」
「え、まさかそこまで計算してこの格好…?」
「当たり前だ。形もそこのクラスのものと揃えてある。」
…さすがすぎる。珠世さんのためなら本当に何でもするなあこの人。
そうして私たちは高等部の校舎へと足を踏み入れた。
一年生から順番に校舎を回っていく。三年生の教室の前を通った時、私は立ち止まった。
「どうした?」
「……。」
みんなが楽しそうな気配をまとっているなか、それは一つだけ目立っていた。
何も楽しくない。つまらない。その上、怒りや恨みのような感情がそこにはあった。
慌てて振り返る。
私の目にとまったのは一人の男子生徒だった。
「見つけたのか!」
「…多分、あの子。一人だけみんなと感情が違う。」
こそっと愈史郎さんに耳打ちをする。
「追うぞ」
彼の言葉に頷く。
私たちはコソコソと周りに怪しまれないよう気をつけながらその跡を追った。
自分の教室には行かないのだろうか。どんどん教室のない方へ歩いていく。最終的に彼がたどり着いたのは職員室前だった。
「え?何で?」
「誰かに用があるんじゃないか?」
彼はそこさえもスタスタと通り過ぎようとする。しかし、その時ちょうど職員室から誰かが出てきた。
「誰?」
「…教頭だな。最近就任したやつだ。」
その人は髪の長い大人しそうな女性だった。
しかし。
私はゾッとした。
「あ…あいつ……」
一目見て思い出した。
そして、感じ取れる感情はあの男子生徒と同じ。というか、あの男子生徒も。
「…どうかしたのか?」
「愈史郎さん、覚えてないの?」
彼は首を傾げた。
…そうか。記憶に関しては個人差があるからこれはしょうがない。
けれど、思っていた以上にまずい状況になっていることは確かだ。