第20章 驚きの連続
二人との話もひと段落ついたので、私は途中で退出した。
愈史郎さんはくれぐれもおとなしくしているようにと言ったが、私は他人のいうことをちゃんと聞くような人間ではない。
今日はやることがたくさんだ。
駅前の道を歩きながら電話のダイヤルを押した。
「もしもし。優鈴、今どこにいる?」
『は?休日に電話してきて開口一番にそれ言う?』
優鈴は私を嘲笑うようにくすくすと笑っていた。
『僕は都合の良い男じゃないんだぜ〜』
「わかってるわよ。でも…でも、大切な話があるの。」
『悪い。今日はダメなんだ。ていうか、明日も明後日もその先も。』
声に覇気がなかった。…こんな元気がない優鈴、初めてかも。
「…どうしたの?何があったの?」
『聞くなよ…。はあ、何があるにしてもなしにしても、一週間後には本番があるんだ。』
「知ってるわ。学園祭でしょ。」
『だから暇じゃないんだよ。…もう切るよ。』
「待って優鈴、放っておけないわ。」
電話の向こうは穏やかではなかった。
『いいや、放っておいてくれ。僕は今感情がぐちゃぐちゃだ。難しい。今朝から文字がひとつも書けやしないんだ。』
「…優鈴」
『実は今日一日お出かけの予定でね。けれど、無しになったんだ。いや僕が無しにしてしまった。』
……お出かけ?
『遊園地は嫌いだ。無駄に人が多い。別に乗らなくてもいい乗り物に乗ってキャアキャア言う。人間が多い。本当に多いんだ。見たくもないものもたくさん見えたし感じたよ。』
「……」
『…見たくなかった。人間の感情は本当に煩わしい。無駄ばかり。』
遊園地。
ってことは。
『お出かけしようって向こうから誘われたんだ。メールで。』
これも入院中のこと。
「ハルナちゃんと行ったの」
『…ひどいことしたよね、僕』
「でも…ちゃんと言ったんでしょ」
『あの子泣いてたよ』
ハルナちゃんは優鈴に恋をしている。それは明白だった。優鈴はそれに気づいていた。けれど、気づかないふりをしていた。
好きだと言われたくもないし、自分が好きじゃないとハルナちゃんに言いたくもなかったんだ。
間違った優しさ。歪んだ優しさ。周りも傷つける優しさ。
最後に傷つくのは、いつも優鈴なのに。