第18章 心が痛むか、体が痛むか
先輩はマンションまで一緒に歩いてくれた。
道中は楽しいことばかりを話した。
「先輩、お一人で大丈夫ですか?お家遠いですよね…?」
「ふふ、ここからは男になるから大丈夫。」
先輩はまたウインクを決めた。
「久しぶりに夜遊びでもしようかと思ってたけど、霧雨ちゃんに会えて良かったわ。あなたとお話しするの、一人で遊ぶより楽しいもの。」
「…私も楽しかったです。」
「そうそう、その顔。」
かすかに微笑むと、先輩は嬉しそうに笑ってくれた。
「いつでも呼んでね、霧雨ちゃん。またお散歩しましょう。」
先輩は手を振ってにこやかに去っていった。
私はマンションの中に入り、エレベーターで上にあがった。その時点でもう日付を大きく超えていた。
…実弥は寝てるだろうな。起こさないように気をつけないと。
部屋の前について、一旦息を整える。
解錠し、玄関のドアを開けた。部屋の中は当然真っ暗だった。うっすらと差し込む月明かりでおはぎがソファーの上で寝ているのが分かった。
それにまた少し微笑んで、一撫でする。
自分の部屋に入り、ソファーベッドの上に腰を下ろした。
電気をつける気にもならないので、真っ暗な部屋の中で一人で座り込む。
体の力が抜けていく。
お風呂に入らなきゃ、寝る準備しなきゃ、と思うのだが全く動く気になれない。
ぼうっとしていたら、頬に何かが落ちた。
天晴先輩がコンビニで買ってくれた氷はもうすっかり溶けていたので道中で捨てた。頬にはもう何もないはずなのに。
気づけば泣いていた。無意識のうちにポロポロと。ずっとこらえていたものが今になって流れ出した。
「……ッ、…ぁ…!!」
声を押し殺して泣いた。
帰ってきて、安心しちゃったんだ。天晴先輩がしつこく帰れと言ってくれたおかげだ。あのままあそこにいたら、今頃どうなってたんだろう。
自分で自分の体を抱きしめて泣き続けた。