第18章 心が痛むか、体が痛むか
天晴先輩に連れていかれたのはコンビニだった。先輩は氷を買ってくれて、それをビニールにいれてハンカチでくるんだ。
頬に当てられるとひんやりとして気持ち良かった。
「一つ聞いておくけど、実弥くんがぶっ叩いたとかじゃないわよね。」
「…違います。」
「そ。良かった。」
天晴れ先輩はにこりと笑った。
「もしそうなら、その五倍にほっぺた膨らましてやるところだったわ。」
「………はは、は…」
とんでもない冗談にようやく笑うことができた。すると力が抜けて、へにゃへにゃと地面にしゃがみこんだ。
コンビニの前で何をしてるんだと思ったが、どうにもできなかった。
「あなた、やっぱり家に帰りなさい」
立ったまま天晴れ先輩が言った。
「…無理です」
「私、お人好しじゃないから真夜中に女の子を連れ歩くなんてしたくないの。帰りなさい。」
「………じゃあ、置いていってください」
私は膝に顔を埋めた。
「もう全部どうでも良くなったんです」
「………霧雨ちゃん」
先輩はしゃがみこんだ。顔を上げると目があった。
「例えあなたがあなたを捨てても、私はあなたを捨てないわ。」
「………」
「私はどうでも良くなんかない。あなたを置いてなんかいかない。本当なら何があったのか話を聞いて、帰りたいなら気が済むまで付き合ってあげたいわ。」
でもね、と先輩は続けた。
「私は男よ。見た目はこうだけどれっきとした男。夜にお付き合いもしていない女の子を連れ歩くなんてことはしないわ。」
「……………」
先輩は自分のことだけでなく、私のことも考えてくれているのだとわかる。
「それでも嫌とか言う?」
私はぐっと唇を噛んだ。
「……その聞き方はズルくないですか…」
諦めたように私が言うと、先輩はにこりと笑った。
「ええ、ズルいわよ。」
その笑顔に釣られて笑ってしまった。
天晴先輩が私の手を引いて立ち上がらせた。
「ゆっくり帰りましょ。歩く?」
「いいですね。でも女の子を連れ歩くの嫌じゃないんですか?」
「ふふふ、今は女よ。」
いたずらっ子のように笑い、天晴先輩が綺麗にウインクを決めた。