第2章 混濁
知り合いがたくさん訪ねてきてくれた。
いかにも病人顔の、青白い私を見下ろして皆いろんな言葉をかけてくれた。
そのおかげか、私はほとんどまともに話せるようになった。
舌がちゃんと動くし喉も震える。けれど、大きな声は出せなくてボソボソと小さな声だけど、皆ちゃんと聞いてくれる。
「霧雨さん、今日は座ってみましょうか。」
リハビリの先生が朗らかに言った。
回復へ向かう私にまず立ち塞がった壁はこれだった。
座る。
簡単なことだと思うだろうか。けれど、これはとても難しい。祈るように手を握りしめるおばあちゃんとおじいちゃんの前で私はいよいよその時を迎えた。
「座るんです。いいですか、わかりますか、霧雨さん。」
「…わかりません、座るって、どうしたらいいですか。」
まず寝たきりの体は筋力が衰えていて、起き上がることもできなかった。体の動かし方がわからない。どこを動かせば起き上がれるのか。座れるのかわからない。
「大丈夫です。支えますから。点滴の管に触らないでくださいね。大変なことになりますから。」
それって心臓が止まるより大変ですか、とか冗談まじりに聞きたかったが今の私では洒落にならないのでやめた。
たくさんの看護師さんが私を支えて押し上げた。
ほとんど筋力も使わずに、私は数ヶ月ぶりに起き上がった。
ゆっくりゆっくり。体が起きていく。
しかし。
「ア」
ギュルン、と視界がひっくり返った気がして、目の前が真っ暗になった。
そして次に何か見えたと思えば、目の前がチカチカした。
リハビリの先生とおばあちゃんとおじいちゃんが私を見下ろしていた。
私を支えてくれた看護師さんたちはもういないみたいだった。
「うん、霧雨さん、わかりますか?」
「…せんせ…と、おじいちゃ、とおば…あ、ちゃん。」
「はい。そうですよ。」
先生はにこやかに笑った。
「気絶しちゃってたんですよ。ほんの数分間ですけどね。」
ああ、そうなのか。通りで意識がはっきりしないはずだ。おばあちゃんたち、すごく心配そうな顔してる。