第2章 混濁
私が髪の毛を気にしていることに気づいたのか、実弥はちょっとの間病室の外に出た。
「売店で買った」
と、言ってその手にヘアブラシを持っていた。
「とりあえず前髪だけでいいか?」」
「う」
「寿美と貞子にやってたことあるからなァ。懐かしいもんだ。」
実弥が慣れた手つきで髪をとかす。
私はそれが嬉しくてニコニコと笑っていた。
いや、ちょっと待てよ。
何それ。詳しく聞かせて欲しい。寿美ちゃんと貞子ちゃんとそんな可愛いことしてたなんて。待って私が髪の毛ボサボサでも笑うだけで何にもしなかったのに。
いいないいな私もしてもらいたい。いや今してもらってるけども。
「…?何だァ?何か嫌なのか?」
「………」
実弥は不思議そうに私を見下ろした。
そしてしばらくして終わったのか鏡をまた見せてくれた。
前髪は綺麗になっていた。
それは嬉しかったので、また笑った。
「すごいすごい」
またさらりと言葉が出た。
実弥はそれに笑った。
「お前、ほんと調子いいな。」
そう言われて一言二言冗談を返したかったけど、何も言えなかった。