第2章 混濁
気持ち悪い。最高に気分が悪い。何なら吐きそう。もうずっと食事なんてしてないしお腹も空かないから吐き出すものなんてないけど。
「ずっと寝てましたからね。起き上がったことで内臓の場所が動いて、体がびっくりしたんですよ。大丈夫。健康な証ですから。迷走反射神経って言うんですけど。」
「…気持ち、悪いです。」
「うん、でも、生きてますよ霧雨さん。」
先生はにこりと笑った。
「またやりましょう。頑張りましたね。霧雨さん、諦めないでくださいね。」
その優しい物言いに、自分の身に起きた事がどれほど恐ろしかったのかを痛感した。
私は座れもしない。それだけで失神してしまうのだ。
おばあちゃんとおじいちゃんはたくさん励ましの言葉をくれた。
私はそれに全部頷いた。
「へええ、大変だね。」
その話を聞いて、こんな風に言ってのけるのは桜くんだった。
「座れないんだ霧雨さん。今日も気絶したの?」
「あう」
「集中力が足りないんじゃない。」
私に見舞いの品でカステラを持ってきてくれたのだが、まさか何も食べられないとは知らなかったらしく、自分でモグモグ食べていた。こんなことできるのこの子だけだ。
「さ、3秒は、平気になったよ」
「あっそ。」
こんな時でも態度が変わらない桜くんに、私は安心していた。良かった。
「霧雨サン、何か雰囲気変わったね。」
そして、感が鋭いところも変わっていなかった。
「私、話したいこと、たくさんある。」
「そう。僕もだよ。」
「桜くん、生きてる。」
「は?なに急に。」
桜くんは首をかしげた。
「死にかけてたのそっちじゃん。」
「生きてる、生きてるよね。」
「ねえ意味わかんない。何なの?心臓止まって頭おかしくなった?」
私は夢の中のことを話したかった。けれど、うまく言葉が出なくて。頭が働かなくて。そんなことしか言えなかった。
ただただ桜くんを困らせてしまった。