第17章 夏の終わり
そして。
「ぎゃあーーーーーーああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
突然のことに春風さんが悲鳴のような声を上げた。しかし、それさえも母の咆哮がかき消した。
実弥が目を見開く。不快な金切声に耳を塞いでいた。
二人がそれぞれの反応をする中、私だけが動いていた。
背後から抱きつき、母に負けないように必死に叫んだ。
声を出すだけならいいが、暴れられたらもう手がつけられなくなるからだ。抱きついて動きを押さえ込むしかなかった。
「お母さん!お母さん、落ち着いて!!」
「うるさいうるさい!!私に口答えしやがってええええええええーーー!!!!ああああああああーーーーーーーーーーっ!!!」
母がバタバタと手足を動かす。抑え込むことができずにテーブルの上に置かれていた空の皿が床に落ちて割れた。
それを靴越しに踏んでしまって、少し足の裏が痛かった。暴れ回る母が壁に激突した。私も当然ぶつかる。
「!!」
「さん!!」
「二人ともやめて!動かないで!!刺激しちゃだめ!!」
動き出そうとする春風さんと実弥に叫び、二人の動きを止めた。
「お母さん、大丈夫だよ!!大丈夫だから!!!」
当然この騒ぎに何事かと店員が駆けつけてくる。他の客もぞろぞろと集まってきた。
「お母さん静かにして!ねえ、お願い!!お母さん!!!」
ぎゅうっと力を込めて抱きしめる。
暴れまわり、散々叫んだ母は急に力を手放した。
床にへたり込み、メソメソと泣きだした。
まるで、自分が世界で一番不幸だとでも言いたげに。
「……お母さん…」
久しぶりに抱きついた体は、昔とそう変わらなかった。
ただ、泣きじゃくるその背中は昔よりも小さく見えた。