第17章 夏の終わり
私はふう、と一息ついた。
これ以上私たち親子のことで迷惑はかけられない。
「私に用があるなら、ここにいるのは私だけでいいでしょ。春風さんもこの通りだし、もう二人とも帰らせてあげてよ。」
「おい、お前はまた一人で…!」
「だって」
私を叱る実弥と目が合う。その顔を見ていると申し訳なくて、じわじわと涙が込み上げてきた。
「……そんな顔、見てられないよ」
なんとか泣くのを堪えて言うと、実弥は何かを言おうと口を開けた。
「ダメよ」
それを遮ったのはお母さんだった。
「実弥くん呼んだ意味がないじゃない。」
母の言葉に何も言い返せなかった。
…確かに。この人はわざわざここに実弥を呼んだんだ。
「春風くんはどちらでもいいけど。ていうか、なんでそんなに疲れた顔してるの?何かあったわけ?」
「……いますよ。ここにね。」
春風さんがじとっとした視線を送る。
ああ、こういうところだ。人の心を抉っていながら、まるで自覚がない。何を言ってもこの人には響かない。それが異様にこちらの精神を抉る。
昔から何を言っても何を伝えてもまるで覚えてくれなかった。興味がないものには興味がないのか、全く聞く耳を持たなかった。
この人はそういう人だ。
ごめんなさい、と心の中で謝る。春風さんには伝わっていないと分かっていながらも何度も謝った。
「…それで、私と実弥に何を言いたいの?」
私は母と向き合った。
直感的に、今すぐこの場から逃げ出したいような、そんな不安を覚えた。
だけど、逃げられるわけもなかった。
母は、告げた。
「二人に別れて欲しいの」
母の声は、個室によく響いた。
「……理由」
実弥が一瞬体を動かしたのがわかったので肩に手を置いて制した。ここで下手に感情で動かれても困る。
「は?」
「理由、教えて…!!!」
私の声は震えていた。
実弥の方に置いた手も震えていたと思う。
今にもこぼれ落ちそうだった涙も引っ込んだ。