第17章 夏の終わり
母はじとっと私たちを睨んでいた。
「お金のことは良いわ…。絶縁したんだから氷雨に頼るつもりもないし。」
…家を飛び出してお父さんと結婚したのは中学生の時に聞いたことがある。けれど、いざ本人の口から聞くと驚いてしまう。
「そう。私たちの間に縁はありません。あなたは私の母親の妹……ですが、確かに縁は切れています。正直私たちとしてもあなたに金銭の援助をする義理はないのです。」
春風さんはやつれた顔で淡々と述べた。
「さんの家は私の母から聞いたのでしょう。母は考えなしにお願い事を聞いてしまうので。」
…ああ、確かに。春風さんの家は物で溢れかえっている。靴もカバンも化粧品もドレスも…。しかも捨てられない性格らしい。
今まで何度も会った。おっとりした人というか、優しさの塊のような人だった。
悪気はなかったんだろうと思う。
「いやな予感がして駆けつけてみれば案の定…そこにあなたが帰ってきてしまったということです。」
「失礼ね、人を疫病神のように扱って。」
「…クソババア」
誰にも聞こえないような声で春風さんが呟く。隣に座る私にしか聞こえていないようだった。
ああああああああああの優しい春風さんがこんな風になってるの初めて見たあああああああああああ。
「じゃあ、お母さんは私に用があったってこと…だよね?」
「まあ、そうね。」
「それなら直接連絡ちょうだいよ…。」
私はため息をついた。
「だってあんた電話でなかったじゃない。」
「え?お母さんから電話なんて…。」
「スマホ変えて番号変わったかしら?」
ん?
あ、それ、ちょっと待て。
「……この件に関しては全面的に氷雨家が悪いです…。」
春風さんが項垂れた。
そうだ。春風さんの家にいた時にかかってきた謎の電話番号。出るな出るなと言われ、春風さんに言われるまま着信拒否にした。
「…春風さん、大丈夫です。大丈夫ですから。」
この人はどれだけ自分を責めているのだろうか。ここまでひどく落ち込むなんて…。もう見ていられない。