第17章 夏の終わり
外で騒がれても困るので、とりあえず個室のレストランを春風さんが手配してくれた。
動揺する心のまま実弥に『晩御飯は家で食べない』というメッセージを送った。既読はついた。返信もすぐにきた。
けれど、それを見る余裕は私になかった。
春風さんが私の隣に座り、母親が向かいの席に座る。料理を適当に注文し終えると、母親が話し始めた。
「あんた、お隣の実弥くんと付き合ってるんだって?」
突然そういわれ、悩んだが頷いた。
沈黙が響いた。
料理が運ばれてきても食べる気にならなかった。母親は上品に料理に手をつけていたが、春風さんと私は何も口をつけなかった。
無言が続いた。
今にも死んでしまうのではないかと思うほどに。
春風さんの顔色も悪かった。よく見れば、目の下には隈があった。髪もいつもより乱れていて、何があったのかと心配になってしまった。
母親が完食して、私と春風さんの料理が冷め切った頃に個室の扉が開いた。
「……ぇ」
顔がさっと青ざめたのがわかる。
入ってきた人物は肩で息をしていた。
「さねみ」
「」
春風さんと母親がいるのになんの躊躇いもなく私をぎゅっと抱きしめた。大丈夫だと言わんばかりに数回背中を撫でる。
「なんで」
「私が呼んだの」
混乱していると、母親が答えた。
…呼んだ?呼んだってどうして?ていうかどうやって?どうして実弥の連絡先知ってるの?どうしてどうしてどうして…。
「………すまない」
春風さんが私に抱きつく実弥の肩に手を置いた。
いつもの優しい声とは違う。絶望しきったような、そんな声だった。
「いいえ」
実弥の体は震えていた。
泣いているわけでも笑っているわけでもなく、怒っているのだといやでもわかる。
すっとその体が私から離れて、そのまま私の隣に座る。
春風さんと私と実弥、それに対して母親一人。
奇妙な空間が出来上がってしまった。