第17章 夏の終わり
夏休みが終われば実弥は忙しくなる。私は当然家で一人でいることが増えた。
「おはぎ!果てしなく長い自由時間ができたよ!絵を描くよ!!」
「にゃあ」
寂しくなってしまったので無駄にテンションを上げて今日1日を乗り切ろうと思う。
しかし、絵を描く時間だけはどうしても静かになってしまう。
静まり返った部屋がやけに寂しく感じた。
「……」
思い返せば私はずっとこんな中で仕事をしていたのか。何年間も…。体調を崩した原因にはっきりとしたものはない。けれど、あの生活習慣だったらいつか体にガタがきていただろうと思う。
のんびりと絵を描いて、家のこともちょこちょこやりつつ過ごす。
まったりとした午後だった。
夕方になった頃には絵が完成した。
外を見ると夕焼けが綺麗だった。
暗くなるまでまだ時間があるので、外へ散歩しに行くことにした。
杖をつきながらマンションの外に出て、フラフラと歩く。近くのスーパーまでゆっくり歩いて、往復五分ほどの距離を十五分かけて歩いた。
ちょうどいい気分転換になった。
マンションの駐車場に戻ったところで、何やら揉めている男女の声が聞こえた。
……何かあったのだろうか。
巻き込まれないように、と思って視線を外しながら帰ろうとした。
が。
「止まりなさいッ!!!」
怒鳴り声が響いた。頭がショートする。
この声は、春風さん______?
私に言い放たれた言葉ではない。わかっていたが、知人の声にはつい反応してしまう。
私は立ち止まり、そこで振り向いた。
目を逸らしていた駐車場にいる人物を見た瞬間、足から力が抜けた。カラン、と杖が地面に倒れた。
その人物は私の方へ向かってきていて、春風さんが必死に止めている…そんな状況だった。
春風さんの静止も聞かず、その人物は地面にへたり込む私を見下ろして言い放った。
「」
その声で。
その姿で。
その感情で。
私の名前を呼んだ。
「お母さん」
ガラガラと、周りの景色が崩れ落ちていくようだった。
私はどうもできずにただその顔を見上げていた。