第97章 鬼霞
しかし、目を閉じていた無一郎くんがうとうとし始めたので慌てて肩を叩いた。
「起きて無一郎くん。流石に寝るのはまずいよ。」
「う〜…あれ?俺何してたんだっけ…」
「俺?」
一人称が急に変わったことに驚いていると、無一郎くんは急に甘ったるい声で言った。
「師範、まだ眠いです。“僕”。」
「ああ、うん…でも稽古中だし、頑張ろう?」
聞き間違いかな…。
まあ、そんな大したことでもないよね。
「そういえば、師範は体大丈夫なんですか?さっき踏み込んだ時に足が痛そうでしたけど。」
「よ、よく見てるね。」
「僕心配です。僕。怪我したんじゃないですか?僕に見せてください。」
…何で急に僕僕言い出したんだろう。変な喋り方するなぁ。
「別にいいよ。何ともないから。痛いのは足じゃなくて腰だからね。」
体を見られたらガッツリ痣が見えるので断った。親切で言ってくれているのはわかるけど、あまり人に見せたくはない。
「心配だなぁ、僕が全員ヤリますしここで休んでたらどうですか?」
「……足を引っ張らないようにするから、一緒に参加させてほしいな。」
無一郎くんが誰かをヤッちゃうの阻止しないといけないし。
ということで私たちは再び動き出した。本当なら私が先陣をきりたいのだが今回はそれができないので無一郎くん頼りだ。
…途中で冨岡くんと阿国のペアに遭遇して、それで負けてしまったけれど大健闘だったと思う。私も腰が痛い仲良く頑張った。
「僕のっ、僕の朧が冨岡さんの凪で…」
うわーんと無一郎くんが泣きついて来たのでよしよしと抱きしめてやる。…お互い自分で作り上げた型で勝負した結果、冨岡くんが勝ったのである。
「阿国も!阿国も頑張ったの!勝利に貢献したの!!」
「ああ、よく頑張っていた…」
「わあい!冨岡先生大好きっ!」
冨岡くんがため息をついて目を閉じる。どうやらおしゃべりで快活な阿国とは気が合わなかったらしい。