第97章 鬼霞
腰は痛むけど、こういう時に動けてしまうあたりさすが私だなって思う。
本調子ではないけれど。
一旦大技で道を開けて、無一郎くんと一緒にここを離れた方がいい。きっと他の柱たちと良い勝負はできるけど私たちは筋力で劣るから勝つことは難しいだろう。
一気に走り抜けようと右足に力を入れた時、またしてもひどく痛んだ。そのせいで動きが止まってしまった。
「もらったーーーーーーーー!!」
宇髄先輩が突っ込んでくる。まずい、動けない…!!!
負けを覚悟した時、突然強い力で抱き上げられた。浮遊感に襲われ、何事かと思えば目の前に青い瞳が見えた。
「師範は絶対に傷つけさせない!!」
……え?
もしかして、私今、無一郎くんにお姫様抱っこされて……。
「格好いいね、無一郎くん!」
そこを春風さんが狙う。だめだ、この人は本当に強いんだから。
「私のことはいいから逃げ」
突然、無一郎くんが素早く動いた。かと思えば次はゆっくり。そうしてぐるぐるとみんなを囲うようにして動いていた。
「霞の呼吸、漆の型…」
「漆の型…っ!?」
霞の呼吸は陸の型までしかないはず、どういうこと!?
「『朧』」
緩急をつけた動きはまるで霞そのもの。
翻弄されて誰も動き出せず、無一郎くんはその隙に見事に逃げ切ってみせたのだった。
「ここまで来たら大丈夫かな…」
みんなから離れたところで無一郎くんは立ち止まった。
「あの…」
「はい?」
「お、おろして……!!!」
恥ずかしさのあまり両手で顔を覆う。
あぁ、こんなのもう黒歴史確定だ…。
「『私のことはいいから逃げ』…何でしたっけ?」
「言わないでください」
楽しげな声が聞こえて来たけど顔が見れなかった。
無一郎くんはそっと私を下ろし、椅子になりそうな岩の上に座らせてくれた。
「僕だって、師範を守って戦えるんです。わかってもらえましたか?」
「…う、うん」
そう言う彼は私の知っている子供って感じではなくて…。
何だかときめきのようなものが胸に広がっていったのでとんでもねぇなと思いました。はい。