第97章 鬼霞
不安を抱えながらも、稽古は始まってしまった。
無一郎くんは満面の笑顔で私の隣を歩いていた。
「師範と一緒、師範と一緒」
なんて言いながら陽気に笑っていた。稽古中だとわかっているのだろうか。…でも私も他のことに気を取られているから、この子のことを叱れない。
「無一郎くんと一緒、いっしょっしょ〜」
「師範といっしょ〜」
「「しょっ、しょしょっのしょ〜」」
二人で変な歌を作って適当に合いの手をして歩いた。打ち合わせをしたわけでもなかったのに息ピッタリだった。
「不協和音!!!!!!!!!!!!!!!」
その時、木の上から誰か落ちてきた。
それに驚いて無一郎くんと一緒に飛び上がる。
何かと思えば落ちて来たのは善逸くんだった。
「ああああああアアアアアーーーー!!あまりにもへッッッたくそな歌が聞こえてきたから耐えきれなくて落ちちゃった!!音痴すぎるでしょ!!いくらなんでも!!」
「あ…」
しまった、そういえば私は度を超えた音痴だった。
「何…?僕の師範を馬鹿にしたの…ねえ、今馬鹿にしたの?」
「いいいいいいいいいやああああああああああ殺されるううううううう!!!!!!!!!!!!!!」
「無一郎くん、善逸くんは悪くないよ…」
慌ててやめさせようとしたけど、そういえばこれ訓練だし別にいいのかと考えを改めて模造刀を抜いた。
ええと、善逸くんの相方は…。
「蛇の呼吸」
伊黒くんか。
慌てて応戦する。無一郎くんの背中目掛けて来ていたので咄嗟に庇って攻撃を弾いた。
「さすがだな霧雨。やはり気づいたか。」
「いっ伊黒先生!ごめんなさい!!」
「言い訳はいいから動けゴミクズ。」
ゴミクズて。仮にも学校の生徒相手にゴミクズて。
「無一郎くん、そっちは…」
チラリと後ろを振り返った時、視界の端にまた違う人が見えた。
ああこれはまずいと思って、一旦伊黒くんを放置してその人を叩きに行った。
「八重霞」
「おっと」
ひらりと交わされたが、後退させることには成功したので一旦動きを止める。
「たとえ怪我をしているといえど、一筋縄ではいきませんか。」
「ド派手に行こうぜ氷雨さん!」
春風さんと宇髄先輩ペアまで来てしまったーーーーー
4人に囲まれるなんて…はてさて、一体どうしたものか。