第97章 鬼霞
実弥は煉獄くんと組むのか。意外と馬が合うみたいなんだよな、あの二人。
手強い敵ばかりだな…さて、どうしたものか。
「」
「優鈴」
私が頭を悩ませていると、不意に声をかけられた。彼は伊之助くんとペアではなかったか。
「ちょいついてきてもらっていい?」
「あ、うん。無一郎くん、また後でね。」
「ああ、師範〜」
無一郎くんがぐすん、と目を潤ませる。罪悪感が込み上げてきて無意識に心臓のあたりを抑えていた。
「あの猫被りによくもまあ騙されるよね」
「何のこと?」
「教えてやんね。」
優鈴はそう言うと話さなくなった。それからしばらく歩いて、みんながいる場所からかなり離れた場所まで来た。
「ねぇ、こんなところに何の用があるの?」
「会わせたかっただけ。」
誰と、と言おうとしたが、優鈴が指差す方向にいる“彼女”を見て全てを悟った。
「私……」
「お久しぶりです」
そう。鬼の私がそこにいた。
彼女は凛とした声ではっきりと私に話しかけた。…前に会った時と印象がだいぶ違う。
「実は彼女、稽古している間はずっとこの山にいたんだよね。」
「え…」
「それ以外の時間は、現代版の藤の家的な、こっちの事情をわかってくれる病院で過ごしてもらってた。珠世さんも協力してくれて人に襲いかかるような凶暴性はコントロールできるようになったしね。」
そうだったんだ…。そうなっていたのか、あまり聞かされていなかったからホッとした。
「稽古でみんなが戦っている様子を見せている間に、全てではないにしろおおまかな記憶は大体取り戻すことができたんだ。」
「!本当なの?じゃあ…。」
目を見開いて彼女を見ると、穏やかに微笑んだ彼女はゆっくりと頷いた。
「この前はすみませんでした。急に襲ってしまって。」
「あ。いや、私が、私から仕掛けたみたいなもんで…」
「記憶が不安定だったので、どうやら本能的に動くことが多かったようです。言い訳にしかなりませんが謝らせてください。」
そう言って微笑む彼女に、大きな不安を感じた。
こうして話していると頭がおかしくなりそうだった。間違いなく彼女は私だった。
みんなが霧雨と呼ぶ、霞柱と呼ぶ私だ。
彼女は完璧に私だった。
霧雨だ。
それじゃあ、私は何なのだろうか。