第97章 鬼霞
常に腰をトンカチで殴られているような痛みが襲うようになってしまった。
トイレやお風呂など、必要最低限の移動はしなくてはならないがこれが辛い。痛くて痛くて、壁に寄りかかってなんとか数メートル動けるかという状況だった。
もう介護されるために施設にでも入った方がいいんじゃないかしらと思うが、弱気になる度に頭の中でお母さんの声が聞こえてくる。
『まだ若いくせに』『一人だけ楽して』とか、過去に言われてきたものだが今だけは辛くなかった。むしろありがとうと言いたい。そのおかげでなんとか体を動かそうと思える。
「ああ、もう!!クソ!!」
それでも腰は激しく痛むので私は度々怒鳴ってその場に座り込んだ。
「また布団から抜け出したのかよ?安静にしろって言われてるだろ。」
「ずっと寝てるのもしんどいの。イタタタ…。」
「ゆっくりしとけばいいのに、そういう発想はお前にないんだなァ。」
実弥が呆れたように笑った。馬鹿にされているような気がしたが、この状態では何も言い返せなかった。
「で、次の稽古はどうすんだよ。」
「えっ次の稽古…?もう連絡きてたっけ!?」
「昨日の夜な。」
「ええ…っと、どうしようかな。コルセット巻けばいける…?」
「言っとくけど参加はさせねぇぞ」
実弥が血走った目で睨んでくる。…じゃあなんでどうするのか聞いたんだよ。
「家に残るか、見学するかしか許さねぇからな。」
「見学…」
「いや待て、お前のことだから、見てるうちに動きたくなったとか動ける気がしてきたとか言って暴れだすな。やっぱり留守番してろ。」
「ねえそれ私に決めさせる気あった!?」
最終的に実弥の決断で二人揃って次の稽古は休むことになった。
「風の呼吸も霞の呼吸も、俺らがいなくなって他に人員がいるんだ。儀式に参加できなくても責任を感じることはねぇだろ。」
「確かに…霞の呼吸は飽和状態だしなぁ。」
陽明くんのおかげで全員参加させてもらえることになっただけで、本来ならそんなに人はいらないはずだ。
実弥には申し訳ないけど優鈴に休むって連絡しておかないとな。