第14章 意味のわからない話
その場はしんと静まりかえってしまった。
居た堪れなくなったのか春風さんが言葉を挟んだ。
「これ以上は、もうありませんか?」
私たち二人にそう尋ねた。
二人とも無言だった。
「……では、私から少し。部外者の立場から言います。」
最後を締め括ったのは春風さんだった。
「突き放すのも受け入れるのも全て愛情だと思います。私はお互いが良い方向へ進むことを願いますよ。……お互いがね。」
念を押すように繰り返し、その場は解散となった。
有一郎くんは今にも泣き出しそうな顔で春風さんの家から帰っていった。
有一郎くんを送り出し、ひどく疲れてしまった私はリビングのソファーに寝転がった。
「…大丈夫ですか」
「もう、ダメです、ダメ。私、もう何にもしたくない。辛いのか、苦しいのか、悲しいのかわかんないの。」
私の声は驚くほど震えていた。
「よく、頑張ったと思います。…教えてくださいますか。無一郎という少年とあなたがどのような関わりを持つのか。」
春風さんはそっと私の額に手を当てた。
その手が暖かくて、少し安心した。私は話し始めた。
「無一郎くんは私の継子です。私は、あの子に出会って、“愛”というものを知りました。愛の言葉の意味を知ることができたんです。」
「…」
「……でも、私はあの子を一人にした。」
感情がぐちゃぐちゃだ。当時のことを思い返すことでさえ億劫だった。
「私は、桜くんの薬を飲んだ十年後に鬼になりました。鬼になると同時に鬼殺隊を離れることが決まっていたので、最後の二ヶ月はその準備をしていたんです。無一郎くんと共に過ごしたのは、その二ヶ月の間でした。」
「…では、あなたは。」
「あの子を一人にすることがわかっていながら、受け入れたんです。鬼になることも何もかもを秘密にして、鬼殺隊から消えました。柱の称号も全てを、まだ幼い子供に押し付けて消えたんです。」
私は続けた。
「その結果、彼は死にました。…私が殺せなかった鬼に殺されたんです。」
「……そう、でしたか。」
春風さんは目を伏せた。
私の額の上に置かれた手がスッと離れていった。