第14章 意味のわからない話
「…でも、無一郎くんを突き放したのは本当。自覚もある。」
私は素直にそう言った後、深々と頭を下げた。
「その上で言うけど、会う事はできない。ごめん。」
「な、なんで。」
「理由は無一郎くんには言ってある。」
「けど、あいつは納得してない!」
有一郎くんが憤慨する。…優しい子だな。弟のために全力で怒れるんだ。
「…そうだね。でも、会えないんだ。」
「どうしてですか」
「………」
私はぎゅっと唇を噛んだ。
…なんて説明したらいいんだろう。
「私がいると言えませんか?」
「……春風さんがいなくても私は同じことを言います。」
「…そうですか。」
春風さんは心配そうに眉を下げた。
…私はこの人にもこんな顔をさせてしまうのか。
いつも
いつも、うまくいかないなあ。
「わたし」
なんと言えばいいだろう。
何も知らない、まだ少年である目の前の男の子に、なんと。
「無一郎くんのことは忘れないよ。ずっと覚えてる。ずっとここにあるから。」
ぎゅっと心臓のあたりを抑えた。
「……それでね、時々、苦しくなるよ。今何してるんだろう、どこでどんな風に過ごしてるんだろうとか、考えるんだ。」
私は不恰好に笑ってみせた。
「無一郎くんのことは大好きだよ。世界が終わる日になっても、私はきっと幸せになってくれたらいいなあ、って願ってる。ただし…私のいないところでね。」
純粋な気持ちだった。
私はあの子を愛してる。何百年、この気持ちは耐えることがない。人の想いは消えない。だから、今の私にも受け継がれている。
でも、今更愛していると彼を抱きしめるには。
私は秘密を抱えすぎた。もう戻れないあの時代に、置いてきてしまった。だから会えない。
「そんなのおかしい。」
反論するように有一郎くんが声を出した。
「たとえ、無一郎があなたに会えなくて毎日苦しんでいても、幸せになれるって思ってるの______?」
苦し紛れの、言い訳のような話口調だった。まるで脅しのようにその言葉を私に放った。
「___思ってるよ」
私もまた、言い訳のように言った。