第96章 現代版柱稽古2
「霧雨は時透の師範だったのか。」
伊黒くんにそれを言われたのは、2回目の稽古が終わって一息ついたところだった。
第1回では優鈴がハッスルしていたので不平不満ばかりだったが、今回は悲鳴嶼先輩が仕切ってくれたのでみんな粛々と与えられた課題をこなしていた。
優鈴は仕切り役に向いていないことがよくわかった。
って、そんなことよりも。
「そうだよ。知らなかった?」
「ああ。時透からそういう話は聞いたことがなかった。霧雨の実力が群を抜いていることは見ていればわかる。あの時透を育て上げたのも納得だ。」
「育て上げたっていうか、あの子は勝手に育った…かも。」
確かに、日常生活的な面では育てていたと思う。出会ったばかりのあの子はお風呂の入り方も知らなかったくらいで、そういうことは逐一教えてあげてたけど。
戦術とか呼吸に関しては『見ろ』と『やってみろ』しか言ってないと思う。
「もともと才能がある子だったから放っておいても良かったしなぁ…。私は教えるのすごく下手くそだから正直助かってたし、『手のかからない子』って感じで。」
「確かに、時透は天才肌だな。」
伊黒くんはふむふむと頷く。
「無一郎くんは良い子だよ。一緒にいて楽しいの。」
「そうだな。それは同感だ。」
とかなんとか話していると、後ろからガサッと物音がした。何かと思って振り返るとまさかの無一郎くんがいた。
「師範」
「あ…。」
「僕と一緒にいると楽しいだなんて…そんなふうに思っていてくれたんですか!?」
満面の笑顔で私の近くまで来る無一郎くん。…本人に聞かせるつもりはなかったけどなぁ。
「良かったな、時透。」
「はい!」
「お前は本当に霧雨が好きなんだな。」
無一郎くんはニッコニコだった。まあ、幸せそうならいいか。
それから満足したのかルンルンと鼻歌混じりに去っていった。…いつから聞き耳立てていたんだろうか。ちょっと怖いな。
「…時透が無邪気に笑っていると安心する。」
「ん?」
「前世では若くして亡くなってしまったから。」
伊黒くんの表情に影が落ちた。
どうやら彼にも無一郎くんに対して思うことがあるらしい。