第95章 僕の師範ー昔の話ー
みんなが師範をどう思っていたのか、僕にはよくわからない。
人それぞれ思いはあるだろう。
師範はみんなのことを想っていた。あんなに愛情深い人はいないだろう。
師範は誰にも死んでほしくなかっただけで、誰かが死ぬくらいなら自分が死にたいって思っていた。
だけど強くて、ずっと死ねなくて。
それが悪いことのように囁かれていた。
師範が死んだら僕が悲しいのに、そのことは考えてくれなかったのかな。
考えてほしかったな。だけどそんな余裕、きっとなかったんだろう。
師範はいつもギリギリだった。見ていればわかる。いつも悲しそうだった。それを誰にも言わないままいってしまった。
たとえどんな人でも僕にとっては世界一の女性だし、師匠だ。
師範が生きてきた軌跡を、僕は知らない。
師範をよく知る人たちはもういない。
手紙をしまい込んで、少し物思いにふけったけど、無駄だと思ってやめた。最後まで大事なことを何も言わないで隠したまま死んでしまった、あの頑固者のことを考えたところでどうにもならないだろう。
僕は師範の手紙を読んだことを炭治郎に伝えた。
「読んでよかったよ」
心の底からそう言えた。
「そうか。それならよかった。」
「うんっ」
よし、今日の柱稽古も頑張ろう。
徹底的にみんなを鍛え上げて…。
『無理しなくていいですよ』
気合を入れたとき、遠い昔の師範の声がした。
『できないならできないでいいですよ』
______あの時の僕は、師範に見捨てられると思っていた。
けれど今なら分かる。
『それを、忘れないでいてね』
師範は笑顔だった。でもあのときは悲しそうな笑顔だった。
柱になれる人となれない人がいるみたいに、人には差がある。
師範はそれでもいいと言っていた。隊士たちが育たなくても良いのだと。
『鬼殺隊はそれでいいのです。』
どれだけ甘いとぬるいと言われても、師範は考えを変えなかった。
大丈夫だと笑っていた。
師範はまるで未来が見えていたようだ。
ついに僕たちはここまできたのだから。