第95章 僕の師範ー昔の話ー
ガラスの優しさに触れた気がして、胸が熱くなった。
「でも…どうして、今までこの手紙を渡してくれなかったんですか?もう師範が亡くなってから二年も経っているのに…。」
「約束だったんだ。」
冨岡さんは、少し目を伏せた。
「時透が全ての記憶を取り戻した時に渡すように_____と。」
それを聞いて、記憶の中の、笑顔の師範の顔が頭に浮かんだ。
「この手紙を俺に渡した時、ガラスがこう言っていた。」
「……。」
「『俺とにできる最後のことだ。』…と。」
この手紙を届けた時、アイツがを超える霞柱になっているのなら。
「『俺たちは何も託さない。ただ、無一郎のなりたいように、ありたいように生きることを、ずっと願い続けている。』」
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いつもいつも僕に厳しい師範を止めようとしてくれた。師範が無理をするのも止めようとしていた。
『お前がなりたい人間になればいい。もそう願っているよ。』
ずっとずっと、見守っていてくれた。
「…時透が受け取らなければ、俺の好きにするようにと言われていた。」
冨岡さんは再び懐から手紙を出した。
「全てはお前が決めろ。」
俺はその手紙を受け取った。
「ありがとう、ございます。約束を守ってくれて、ありがとうございます。」
ただただ口からその言葉が出た。
「俺は、約束を守ることしかできなかった。礼を言われる筋合いはない。」
冨岡さんはそれだけ言って、立ち上がった。
それでも今、俺の手の中に手紙があることが嬉しくて、もう一度だけ感謝の気持ちを口にした。