第95章 僕の師範ー昔の話ー
「おい」
声をかけられて振り返ると、傷だらけの顔が見えた。
「不死川さん」
…話を聞いてくれそうな胡蝶さんを探していたのに、期待できない人に見つかってしまった。
「癪だがしょうがねえ。言ってやるよ。」
「はい?」
何を言っているのかと眉を潜める。
「刀鍛冶の里に“アマモリ”って奴がいる。」
「アマモリ……」
「……。」
「そ、それだけですか?」
「後はテメェでどうにかしろォ。」
不死川さんは背中を向けてどこかに行った。…いったいなんの報告だったんだ?
「あと他のヤツらはもう帰った。」
「…そうですか。」
こちらを見もせずにそう言われた。誰もいないなら残る必要もない。
僕は足早に立ち去った。
自分の屋敷に帰ってからも頭の中は師範のことでいっぱいだった。
「銀子は師範のこと覚えてるよね?」
「覚エテルワヨ!!」
やたらと興奮気味にそう言われた。
「烏の間で話題になったりしない?」
「シナイワネェ。」
「ガラスは?何か言ってない?記憶がないとき、僕に会いに来てくれたりしてない?」
頭の中に、お喋りな烏が思い浮かぶ。たくさん文句を言われたが、師範と同じくらいお世話になった。
「…彼ハ、モウ……」
「え?」
「師範サンガ亡クナッタ日二彼モ亡クナッタノヨ。」
「あ…そう、か。ガラスも…。」
僕は項垂れた。……また一つ失ったものが増えた。
「最後ノ最後二、オ館様ノ所二飛ンデ事切レタソウヨ。何カ伝エタイコトガアッタノカモシレナイケド、着イテスグニ息ヲ引キ取ッタカラ、間二合ワナカッタンデスッテ。」
「……ガラスが師範の元を離れるなんておかしいね。『最後まで一緒に行くんだ』って僕には言ってたのに。」
それ以上に何か、大切なことがあったんだろうか。
どれだけ疑問に思っても答えは出なかった。