第94章 現代版柱稽古
さて、十分が経過しついに稽古が本格的に開始となったが。
その合図が聞こえた瞬間に、落雷のような激しい轟音が山中に鳴り響いた。この音は…。
『全員気をつけて!安城さんがいきなり来た!』
よりにもよってそうきたか、と心の中で舌打ちをする。
一体誰のところに行ったのだろう。いきなり天晴先輩と遭遇するなんて可哀想すぎる。
『悲鳴嶼くんと実弥くんが一緒に行動しています。あとは基本的に単独行動のようですね。ただ、宇髄くんが甘露寺さんの方に行っていますのでご注意を。』
『安城さんは俺らのところに凸って来たからなんとかするよ。』
耳の発信機からあれやこれやと指示が聞こえる。…これ便利だな。
しかし向こうの作戦がなんとなく見えてきたぞ。特攻隊長である天晴先輩をこっちのチームの指示塔である2人のところによこしてくるあたり、私たちの分裂を図りたいらしい。
『のとこに冨岡来てるから気をつけろよ〜』
最後に私への伝達が聞こえて、通信は一旦大人しくなった。
…冨岡くん、か。彼なら何がなんでも絶対に単独行動だ。間違いない。確信すらある。1体1ならなんとかできるか……。
「水の呼吸」
「!」
声が聞こえた瞬間、私は刀を振り回した。
「参ノ型、霞散の飛沫!!」
背後から現れた冨岡くんを退ける…はずだったが。
カスっ
鳴ってもいない情けない効果音が聞こえた気がした。……わあ、綺麗な空振り!!
「……」
「……」
空気が凍りつく。無表情がテンプレの冨岡くんでさえ『えっ嘘だろっ』という顔をしている。
……しまった、私が使っていた刀と長さが違うからいつもの感覚でやるとズレが生じるんだ。呼吸を使うには不便ないと思っていたけど、動いている人間を相手にすると色々と厄介だ。
「俺は」
「…」
「俺は何も見ていない」
冨岡くんはそう言って、一瞬にして私の目の前から去っていった。去り際の顔は、すっごい可哀想なものを見るような、憐れむような優しい微笑みだった。
『、冨岡を退けたみたいだね!さすがやるじゃん!!余裕があれば甘露寺さんのフォロー行ってあげて〜。』
通信機から優鈴のそんな声が聞こえて、私はたまらずにその場にうずくまって頭を抱えた。