第94章 現代版柱稽古
何かと思ってつかんだものを見てみると、そこらへんに落ちている石だった。
「…?」
「ひいいいいいっ!!!!!」
怯えた善逸くんが私にしがみつく。
「いったい誰が…」
キョロキョロと見渡すと、無一郎くんがずんずんとこっちに向かってきているのが見えた。
「我妻先輩…」
「えっ!?俺!?」
「………師範と炭治郎の会話を遮ったらダメですよ」
その顔は恐ろしいほどに真顔で、善逸くんを凝視していた。
「加えて、師範に『素直な良い子』なんて、お…僕も言われたことないのに……。だいたい不安だからって師範に手を握ってもらうなんてのが贅沢すぎるんだよ…。」
「………無一郎くん。」
ボソボソとなんか呟きだしたので、そっと肩を叩いた。
「石は君が投げたの?」
「だって我妻先輩が師範と炭治郎の邪魔をしたし、やたらと情けなく甘えるから。」
「そう。」
私は冷ややかな視線を無一郎くんに向けた。
「わかった。君はそういう子なのね。」
「……えっ…」
「善逸くんに謝って。」
厳しくそう言うと、無一郎くんは青ざめた顔で善逸くんに向き直った。
「……ごめん、なさい」
「あ、い、いいよいいよ。…そんなに気にしなくても。」
その様子を見て、私はため息をついた。
「し、師範、あの…」
「自分のチームに戻って。」
「……」
「早く。」
無一郎くんは私が絡むと変なことになってしまう。慕ってくれるのは嬉しいけど、誰かを傷つけるようなことはちゃんと注意しなくては。
心を鬼にしてそう言ったが、とぼとぼと去っていく背中を見ると悪いことをした気分だ。
「…はあ、年下の子って難しい。ごめんね、善逸くん。私がなんか怒らせちゃったみたい。」
「いや全然大丈夫ですよ!それより大丈夫ですか?なんか…あの子、すごい悲しそうな音がしますけど。」
「あれは…反省してるだけだと思うよ。」
「それならいいですけど…。」
確かに気になるけど、あの子は私が絡まない方が良いだろう。
誰も怪我しなかったんだし、これ以上怒る必要もないからそっとしておこう。きっとすぐに元に戻ってるよね。