第94章 現代版柱稽古
帰りたいけど…。
「稽古の場所さぁ、産屋敷家が所有してる山なんだよね。」
『山?????』
「そう。山一つ使って稽古するの。貸しきりのバスで連れてこられたから帰れないんだよね。」
『スケールが意味わからんくて何一つ理解できひんねんけどとりあえず帰れないってことね。ほなガンバリーや。』
アマモリくんは急に冷たくなってしまった。
『どっちみちさぁ、俺、日輪刀の再現とかやり方わからへんもん。道具も知識もないし。』
「……そうだよね。」
『力になれへんくて悪いけど、なんか適当なこと言って稽古に参加すんのやめたら?』
…そんなことしたら儀式には出られない、かな。
本来ならば儀式には各呼吸一人ずつ…というところを、陽明くんが神主である父親似無理を言ってくれてどうにか全員が参加できるようになったのだ。
その努力をこんな形で裏切りたくはない。
「無理かな…参加はしないといけないんだよ。」
『まあそこまでお膳立てされてたらな…。ともかく、なんとかしのいでよ。俺、連絡とってみるし。』
彼の声はあまり前向きではなさそうだった。
アマモリくんは非公式の刀鍛冶だ。
もともと里の人間ではなく、外の人間ということもあって誰からも受け入れられることはなかった。
住民としては受け入れられても、彼は死ぬまで公式の刀鍛冶にはなれぬまま。
それでも里を出なかったことを思うと、アマモリくんはみんなのこと好きだったんだろう。それでもみんなと折り合いが悪いのは事実だ。
「私は平気だから、無理に連絡とったりしないでいいよ。」
『ごめんなぁ。そう言ってくれると助かるわ。』
「ううん。アマモリくんと私…二人が納得してないと良い物にならないから。」
『…でも慣れへん刀で大丈夫なん?』
「そのときはそのときだね。心配しないで。なんとかなるよ。」
私は楽観的にそう言った。仕方のないものは仕方ないのだ。
どうせなるようにしかならないから、信じてやりきるしかないだろう。