第2章 混濁
私は眠り続けた代償以外は特に異常はなく、健康体そのもの、リハビリを繰り返して回復を待てば元通りになるらしい。
なぜこんなことになってしまったのか。実弥は全部話してくれた。
私が夢に見ていた阿国のこと。霞守陽明という人物のこと。
鎮魂。神社。舞い。奉納。名前。
まるで小説のような話を何時間も聞かせてくれた。
正直信じられないけれど、私は受け止めることにした。
阿国の感情や苦しみは私がよくわかっている。
まだ全部を完璧に理解することは難しいかもしれない。それでも受け入れなくてはと思う。
私は、そうでなくてはならない。きっと義務や指名のように、全く動かせない体に重くのしかかった。
それ以外にあったことといえば、視力と聴力が低下していた。黒死牟から受けた傷のせいで血を流して一時期は視力と聴力を完全に失った。
それが鬼になったときに完治しなかったことを思い出した
加えて、右足と左手に何やら刀の切り傷のような不思議な形の痣が残った。偶然にも前世で欠損した場所と同じだ。皮膚が変色してしまっていて消えないらしい。
つまり、謎に黒死牟からの置き土産をもらってしまったことになる。けれどそんなこと話せるわけもなく、皆首をかしげていた。まあまだ流暢に話せないのもあるんだけど。
それでも日常生活に支障はなく、大丈夫とのこと。
早くご飯が食べられるようになりたいし、絵も描きたい。
少しむず痒いのは、実弥が本当に嬉しそうに微笑んで、ギュッと手を握ってくること。
それをほんの少し動く指で反応すると、また嬉しそうに笑う。
これが少し照れ臭い。
ああ、話したいことがたくさんあるよ。早く話せるようになりたいな。まだ一言二言しか話せないし。
「検査も無事でよかったねえ。」
「本当本当。リハビリは大変だろうけどなあ。おじいちゃんたちも実弥くんもいるからなあ。」
「あなたを心配してたくさんお友達がお見舞いに来てくれたのよ。ねえ。連絡しないと。」
……この二人がいる前では控えてほしいんだけどな!!!