第13章 出会いは始まり
その後、彼の奥さんが呼びにきたのですぐにその場は解散となった。話したいことがたくさんあると言ったら、彼はこう言った。
『もしあなたが阿国を知っているのなら、阿国のことを聞かせてほしい。休日は子供をここで遊ばせているので、会えると思います。』
私は頷いた。実弥は帰り道、車の中でも不機嫌だった。
「お前、黒死牟のこと知ってたんだな。」
「…。」
実弥が帰った瞬間饒舌に話しだしたので、驚いて一瞬言葉に詰まってしまった。
「うん」
「そうか」
短い会話だった。
けれど、恐らく、実弥の中では何かが起きていた。
それに気づいていた。
だけど、知ってはいけないような気がして、触れることができなかった。
巡り巡ってとはよくいうものだ。
なぜかこの世界は巡り会いで成り立っている。
もしかしたら、私が生まれたのもその延長線なのかも、と思ってしまう。
なんて柄にもないことを考えて夜にぼんやりと部屋の窓から見える空を見上げていると、スマホが鳴った。
誰からだろうか。
非通知だった。出るか出ないか迷って、変な人だったら切ればいいかと思ってまた出た。
「もしもし?」
『……』
電話の向こうは無言だった。
「あのぅ」
返事がない。…変な人だった。
切ろうと受話器ボタンに指をかざしたところで…。
『俺、時透有一郎っていいます』
「……え?」
突然のことに頭が真っ白になる。
有一郎?それって、聞いたことある名前。だって、前世で、お館様が私に教えてくれたから_____。
『あんたに話がある』
「は、はなし…って…」
『頼みがあるんだ。』
決して冷静な声ではなかった。まるで焦っているように思えて、聞き入ってしまった。
『無一郎に会ってやってくれ。』
「…え」
『…な、何でもするから……』
「ちょっ、ちょっと、ちょっと待って」
私は慌てて話を遮った。
「と…とにかく、今取り込み中だから、またかけ直してきて」
向こうが何かを言う前に電話を切った。
もちろん嘘だ。ぼーっとしてただけで何も取り込んではいない。
だが、頭の中が今にも破裂しそうな今日の私では、冷静な判断ができないと思った。ただそれだけだ。