第92章 夜露死苦
日が沈むまで話して今後の展開を決め、私はようやく解放された。
部屋から出て疲れた、と伸びをしていると一番に無一郎くんが飛び付いてきた。
「師範、僕すごいんですよ!みんなと将棋して全部勝ったんです!これからまたやるから来てください!」
「…ちょっと休みたいから後で行くね。」
「やだ!今!」
子供か、と呆れたが…まあ子供だ。中学生だしな。
「やめろ、無一郎。を休ませてやれ。」
意外にもそれを止めたのは愈史郎さんだった。
「……なんで君ばっかり」
無一郎くんは小さく呟いたが、愈史郎さんににらまれて口を閉じた。
「ごめんね、無一郎くん。また見せてね。」
「……」
うなずいてはくれたが不満そうだ。
とぼとぼと去っていく背中に胸がモヤモヤする。
「可哀想なことしちゃったかな。」
「あれくらいで良い。もっとガツンと言ってもよかったんだ。」
「…ありがとうございます、愈史郎さん。」
休んだらもっと話を聞いてあげよう。今は元気が出ない…。
「お前はそれくらい申し訳なくないと思えるくらい図太くなった方が良い。」
「…すみません。」
「謝るな、いじめてるみたいだろ。」
いや実際そうでしょうが。
「……三人はこれからどうするの?」
「俺は時透兄弟と一緒に巌勝の家に泊まらせてもらいます。珠世さんたちは今日はお帰りになられます。」
「はい。私は桜さんへの説得を続けたいと思います。」
「俺は、コイツの研究だな。」
そう言う愈史郎さんの手の中には血液と思われる赤い液体が入った試験管があった。
多分だけど“私”の血だろう。
「念のため、霧雨さんも採血させていただいてよろしいですか?」
「構いませんけど…取ってどうするんです?」
「産屋敷と縁のある病院で極秘に検査します。」
「……わかりました。」
というわけで血を取られた。
「…私これ苦手なんですよね」
「好きな人なんていませんよ」
珠世さんはふふっと微笑んだ。